Opening session: Ruby作者によるRubyについて 報告者: なひ Workshopは,Rubyの作者であるまつもとさんのセッションで始まりました. PerlやLinuxのカンファレンスでRubyについて話されたことはあるものの, Rubyがメインの場は今回が初めてとのこと. 御自身が事前に用意された質問と,参加者からの質問に応えつつ, Rubyの誕生・目指しているところ・これからについて話されました. 最初のテーマは「なぜ新しい言語を作ったか?」. '93年に生まれたこの言語が生まれた理由を, 「フリーソフトウェア界への恩返しとして」 「新しい酒(新しいパラダイム: オブジェクト志向)には新しい皮袋 (新しいスクリプト言語)」 「やり方はいろいろある (There's More Than One Way To Do It: Perlのスローガン). Perl,Pythonだけじゃなく,Rubyがあってもいいよね」 との言葉で説明されました. ただ,最初のきっかけは「純粋に作りたかったから」なのだとか. 続いては「他のスクリプト言語とはどこが違うの?」というテーマ. 現在広く用いられているスクリプト言語という点でPerlと, またオブジェクト指向機能を持つという点でPythonと 比べられることの多いRubyですが, 各言語の差を主に言語設計思想の面から分析し, Rubyの目指しているところを描き出されます. まずPerlについては,その文法の差に比べると, 思想面での類似度が高いとのこと. 「UNIX主義」「簡単なことは簡単に,難しいことは可能に」 「やり方はいろいろある」 という言葉でその類似点を説明されました. Pythonについては逆に異なる点が多く, 特に多様性の許容度の違いを強調されました. Rubyは,結果的に同じ機能を持つスクリプトでもその書き方は 多様であってよいというスタンスです. ただなんでも許すのでなく,バランスの取れた多様性が重要であり, このことがRubyの信条である 「楽をするだけでなく,楽しくプログラミングできる」 につながるとのこと. このまつもとさんのバランスの絶妙さこそが, 筆者をはじめとする多くのRuby愛用者がRubyを使い始めたら離れられなくなり, また今後日本語圏のみでなく広まっていくと信じている理由です. 会場からの質問には, Ruby本体のソースについての質問や文法拡張の提案など, かなり突っ込んだ内容のものもありました. また,Windows環境や分散オブジェクト機能についての質問には, まつもとさんから会場に回答を振る場面もあり, Rubyコミュニティの広がりを感じさせます. また会場から「社内で新規システム開発用言語に推したんですが, サポートやドキュメントの面から,kshに負けてしまいました」 という告白があり,以後のセッションでの, 今後のRubyマーケティングの話題へつながっていきました. つい数年前まで同様な扱いだったPerlも今や認められつつありますし, Rubyがkshを見返す日も近いことでしょう. まつもとさんらによるRuby本についてのお話もありました. 永らくその発売が待たれていましたが,どうやら10月中には店頭に並びそうです. またこの他にもRuby関連書籍の企画があり, 早ければ来年前半にも発売されるかもしれないとのこと. Rubyがメインの初めての場ということもあってか非常に活発な議論が行なわれ, 70分はあっと言う間でした. このWorkshopの少し前に, 安定版である1.4系の最初のリリースとしてRuby 1.4.0が公開されたのですが, まつもとさんは最後を, 安定版の1.4系は1年は続く予定なので安心して使って欲しい, とのアナウンスで締め括られました.